拾った

入学したばかりの高校の校庭で

紙切れを拾った。

散文詩がガリ版で印刷してあった。

作者は転勤していった若い教師。

かなり長いこと、それを持っていたが

幾度かの引っ越しの荷物に紛れてしまった。



「そこは都会と田舎の良いところが混じった学校で

生徒たちはこっそり拾ってきた犬を教室の隅で

飼っていたりするのであった。

（中略）

けれど僕の学生時代は暗く

机の上はナイフで引き裂かれた

カエルの血で汚れていた。



いったい、お前は何をしてきたのだ、と風が問う。

なんにも、なんにもと僕が手を振ると

それを見つけた生徒らが

校舎の窓から、わぁっと手を振るのだ。



その声は風に乗って

がんばれ、がんばれと

聞こえてくるのだ。」



書かれていた教師の名前も思い出せない

はるか昔の文章だ。

手に入った由来が拾った物だったから

謎めいて忘れられなかったようだ。



弁当の残りを分けて飼っている野良もいたし

校庭を出ると一面の田んぼが広がっていた。

卒業して進学する者は、まだ半数にも満たない頃。

この文章を思い出すと

あのころ通った駅前のちんめん屋とか

おばちゃん二人が猫と店番していた貸本屋とか

匂ってくるんだよなあ。

影

何故だ？



仕事を抱え込みたがるＫさんが退職し

これからはみんなで同じように力をつけようと

言っていたはずなのに。



「だって、私にはこれしかないんです」

その言葉を聞くのは二度目だぞ。

私よりもたくさんのことを知り、電話も素早く

みんなから親しまれているのに何故だ。



同じ力をつけたら、今まで雑用係だった時間は

どうなるんだ。

どうして入社して２週間の人が

「自分だけの仕事」を持っているんだ。

と、そういうことらしい。



理不尽な扱いを受けてきたから

「これだけは」としがみつきたくなる。

それでは「小さなＫさん」がたくさん出来るだけ。



理想だけが先に歩いていって

彼女たちの思いの行き先がないんだ。

ぶつけたいことがあれば受けるから話してくれ

とメールの返事を出した。

それぐらいしか出来ないが。



いったい、いつになったら

Ｋさんの影は消えて無くなるんだ。

一年

今の会社に勤めて、明日でちょうど一年。

一年の間に事務員の中で最古参となってしまった。

なんと入れ替わりの激しい会社なんだ。



昨日から明日にかけて

内部監査が来て、きりきり舞い。

通常業務とは違う内容の指示を矢継ぎ早に出され

それを処理するのに精一杯。

ただ、何も隠しているわけではなく

怖いところは何もないので、気は楽だ。

（私の場合は、だが）



こうやって、一人抜けたことも

あっと言う間に過去のことになってしまうのだ。



現在、外は土砂降りの雨。

明日の降水確率は１００％で

「絶対」降るわけですね。

どこか冠水したとか、雨漏りとか、浸水とか

じゃんじゃん電話が来るんだろうな。

退職

朝一番から驚かせてくれる。



「私、今日までですので」と挨拶する同僚。

今月中に辞めることは知っていたし

残っている有休を使うだろうとは思っていたが

知らなかった…。



そういえば、数日前に新入社員の歓迎会をやるって

お知らせが回った時、なんで週末じゃないんだろうと

思ったが、ああそうか。

辞めることがわかっていたから歓送迎会の

つもりだったのね。

じゃ、知ってる人はいたんだ。



明日、検査のために病院に行くからと

飲み会は断られたが、それが本当かどうか…。

でも、なぜ。

去年彼女の為だけとは言わないが、次長と対決した

あの課長にも黙っていたのは、何故。

今回味方になってくれなかったからですか。



新人さんが色々と気に病むタイプのようなので

フォローして下さいねと告げられたのが最後。

それは彼女ではなくて、あなたのことでしょう。



引き留められたり、理由を聞かれたりするのが

いやだったのか、もう愛想をつかしていたのか。

気持ちはすれ違ったままで終わってしまった。

梅雨

いったい、いつから梅雨入りしていたんだろう。

毎日の天気予報で明日傘が必要かどうかだけを

見ている私のような者は、いつの間にか

聞き流していたらしい。

九州北部は６月８日に梅雨入りしていたそうだ。



梅雨明けの平均が７月１８日頃だから

１ヶ月以上の長さがある。

雨が少なければ、昔の渇水を思い出すが

どうやら今年は空梅雨らしい。



娘の通う小学校では、田植えが行われたそうで

水稲にとっては空梅雨はつらいな。