眉間

２０年ほど前まで

自分を「ゆるい顔だな」と思っていた。

美人、可愛い、のどちらにも入らぬ顔だ。

顔の皮膚が厚いせいか、表情もわかりづらい。

「なんの悩みもなさそうな顔だね。」

人から言われるまでもない。

もう少し痩せたら、こういう悩みともおさらばできるかな。

鏡を見ながら、よくそんなことを思ってたっけ。



ゆるい顔は、人の良さそうな顔でもあるらしく

街を歩けば道を聞かれる。

道を聞かれる分にはかまわないが、怪しい勧誘員が

すぐに声をかけてくるのには、まいっていた。

「寄ってくんな、こちとら急いでるんでぃ！」

そういう顔をしてるつもりで

真っ直ぐ、早足で歩くようになった。



今は誰も声をかけようとはしない。

サバサバと街を歩いている。

道を尋ねる人も減った。



髪が伸びてきたので、美容院に行った時のこと。

なじみになった美容師さんを指名して

たわいない話を交わす。

「前回より、もう少し短くしてください」

そう言いながら、前にある鏡を見たら。

目の前にいたのは、笑顔の美容師さんへ向かって

眉間にシワを寄せて、怒った顔してる「オバチャン」！



い、いや、これは見上げる視線だからよ。

ちがう、ちがう。私はこんな顔じゃない。

引きつったような眉間のシワを何度も

こっそりと伸ばしたりしたが、鏡に映るのは同じ顔だった。



ああ、こんな顔して歩いてたのかよ。

やっと「善人顔」の価値がわかるようになったのに。

自分だけ悩んでるような、浅い顔して。



だから、化粧せずにはいられないんだな。